電車がゆっくりと速度を落としていく。そしてドアが、開いた。

 正直、開かなければいいと思った。でも、ドアの向こう側に海南高校の制服が見えた瞬間、その気持ちが揺らいでしまった。

 ゆっくりと電車の中に入ってくる彼。今日がテスト最終日で、しかも雨だからか、海南高校の他の生徒はいないようだった。そんな中で伊勢谷くんは私に近づいてくる。

 「隣、座っていい?」
 「……うん」

 そう言って伊勢谷くんは私の隣に座る。その瞬間に椅子が軋(きし)んだ。

 「あ、」

 伊勢谷くんはにっこりと微笑みながら言葉を続ける。私の心の中は何もまとまらなくて、ドロドロとしていて。正直話なんて聞いていられる心境でもなかったけれど、伊勢谷くんが隣にいて、こうして話してくれるのが嬉しいのも本当のことだった。