あまごい


 言葉を続けることはできなかった。ドサリという音をたてて、何かが落ちたから。

……園ちゃんの、手から。

 「え。園、ちゃん?」

 園ちゃんは落とした荷物を拾わずにこちらに近づいてくる。そして、私に視線を落としてから口を開いた。

 「いま、伊勢谷って言った?」
 「あ、うん」
 「……伊勢谷って、伊勢谷、貴大?」

 ドキンと大きく胸が鳴る。いっそ聞こえてしまえばよかったのに。私の、動揺の音。

 「う、うん。そう」

 聞こえるわけがない。だってたぶん、私より園ちゃんの方が動揺していたから。その証拠に瞳が揺らいでいた。

 園ちゃんは私の言葉を聞いてから梓を見ると、泣きそうな顔で言葉を紡ぐ。