「また傘、ないの?」
 「えっ!? いや、そのぉ……」

 少しだけ身を屈めて、彼は私の視界に侵入してくる。やはり私は上手く彼を見ることができずに、口ごもっていた。

 「ないんだね?」

 なんでこんなこと、見ず知らずの人に言われてるんだろう。なんて、疑問に想いながらも、小さく肯定の意を示した。彼はそれを見て、ため息なのかわからぬ息を吐いてから、一瞬躊躇したような間を作って、声をあげる。

 「もし何だったら、傘、入る?」
 「へっ?」

 思わずビックリして声を漏らす。上手く見れなかったはずの彼の顔は、気が付いたら視界に入っていた。

 「あの、全然! 変な者じゃないんで……まぁ、よかったら」

 彼は照れているのか、私から視線をはずす。