水の滴る傘を畳ながら電車に乗り込む。台風が接近しているらしく、いつにも増して激しい雨は私の制服やら鞄やらをべちょべちょにした。

それを鬱陶しく思うも、目の前にいる彼の方がひどい有り様で、ズボンの裾が変色していた。

 「雨、ひどいね」
 「台風来てるらしいからねー」

 朝から雨が降っているなんて状況、伊勢谷くんと同じ時間の電車に乗るようになってから初めてのことだった。だから実は、二人とも傘を持っている状態も、初めてだった。

 「伊勢谷くん、今日、テスト最終日だったっけ?」

 つい数日前聞いたばかりの名前を、口にした。その響きは少しくすぐったい。