今日こそ、今日こそっ!
そう意気込んで、長身で焦げ茶髪の彼の背中に、言葉を投げ掛ける。
「おはよう!」
彼はつけていたイヤホンを外してこちらに振り返る。
「おはよう」
同じ時間に同じ列に並んで、同じ電車に乗り込む。そんな、例の彼との朝の時間の共有はもう、日常となりつつあった。
あの、初めて朝の電車で彼に会った日から、私はできる限り同じ電車に乗るようにしている。たまーに、寝坊しちゃうこともあるのだけど。
もうあの日からはかれこれ一週間とちょっと。私と彼が共有できる時間はたったの15分くらいだけれど、それでも最初に比べれば大分距離が縮まったと思う。
……ただ、まだ彼の名前を知らないけれど。