「梓!」
 「え、なに? なんで朝からテンション高いの?」

 梓は私のことを怪訝そうに見るけれど、それすらも気にならずに、口を開いた。

 「今日電車でね、彼に会ったの! ちゃんと傘、返したよ!」
 「へぇー、そりゃよかった」

 私と梓は学校に向かって歩き出す。せっかく早く来たのに立ち話になって日直としての責務が果たせなかったなんて、死活問題だ。

 「うん。でね、彼ね、」

 梓は相づちを打って私の言葉を促す。私は満面の笑みを浮かべていた。

 「海南高校の人だったの!」
 「頭いいんだねー」
 「えー、もっと何かないの? 驚くとかさぁ」

 私は梓の反応の薄さに口を尖らせた。一方の梓は私の気持ちなど露知らず、一刀両断に否定の言葉を口にした。