「え?」
 「だって、昨日……」
 「あー、大丈夫。昨日母さんが新しいの買ってきたから」

 そう言って彼はにっこり笑った。私は心のどこかで、ほっとしていた。

 「ところで、いつもこの時間なの?」

 彼は唐突に尋ねた。私と彼の身長差ではやはり見上げねばならなくて、きっと上目遣いになっているのだろう。なんとなく、恥ずかしい。

 「いや、今日はたまたまなんです」
 「へぇー。俺はね、部活の朝練なんだよね」

 言いながら肩をすくめてみせる彼。私はなんて言ったらいいかわからずに、「大変ですね」なんて月並みな返事をした。