あまごい


 「あの、」

 なんで手、震えてるんだろう。

 疑問は頭の隅にやって、鞄の中に入れていた手を傘と共に取り出した。

 「これ、ありがとうございました!」

 私は軽く頭を下げながら彼に向かって傘を突き出す。彼は「あー」という声を漏らしてからそれを受け取った。

 「別にいいって言ったのに。でも、ありがとう」
 「いえ。長い間借りていてすみません」

 傘を持っていた手が、傘が入っていた鞄が、なんとなく虚しい。何かを奪われて、すっからかんになったみたいだった。

 「あ、でも、長傘はさすがに持ってくるの恥ずかしいだろうし、いいからね?」
 「えっ、でも、傘、ないんですよね?」

 昨日、傘がなくて困っていた彼。きっと私が彼の長傘を持っているせいだ。