3回目の、「ありがとう」。私はまた、何も言えていない。そんな自分に、かなり自己嫌悪。

 傘、返したら彼は雨に濡れずにすんだのに。返すのが目的だったはずなのに。

 鞄が重い。朝出てきたときより、ずっとずっと。

 ああ、自分がわからない。私は何がしたいの? 本当に。

 傘の柄はまだ少し温かくて、なんとなく寂しい気持ちになる。私はそれを握り直して、それから鞄を見た。忍ばせた傘は持ち主のところに返ることができない。すべて、私のせいだけど。

 はぁっとため息をつく。

 私はそれからしばらく、その場から動くことができなかった。