私も彼も、傘の中央には寄らないように。決してくっつかないように。きっとそんなことを頭に置きながら歩いている。だから私の右肩は濡れているし、私と彼の肩がぶつかったことはなかった。

 もうすぐ、この間別れたところに着く。私は無意識に鞄を握っていた。

 「ありがとう」

 彼はまた、自然に私の手中に傘を戻す。ほんの少しも触れ合わなかった手に、むしろ彼の思いやりを感じた。

 「じゃあ」

 彼の後ろ姿が遠ざかっていく。この間よりも小雨だったけれど、少し霧っぽかったからすぐに姿は見えなくなった。