「は、はい」

 今日はキョドってばかりだ。恥ずかしい。

 私の上擦った声がこの空間に、響く。それがまた、この距離を意識させた。

 「ありがとう」

 彼はなぜか私にそう言う。「ありがとう」は彼が言うべき言葉じゃない。私はまだ2回分の「ありがとう」を胸に秘めたままなのに。

 罪悪感が募り始める。雨に濡れ始めた鞄がそれをさらに助長させている気がして、私は口を開いた。

 「ごめんなさい」

 これは、何に対してのごめんなさい?

 「ありがとう」を言えなくて? それとも、傘を借りたままでいて?

 思うことはたくさんあるのに私はそれをすべて、胸の奥にしまった。結局私が発したごめんなさいは、

 「傘、持ってきてなくて……。すみません」

 そんな嘘に、コーティングされた。