やがて目の前の彼は私を見て吹き出すように笑う。傘は開いているというのに駅構内にいて、しかも笑われているなんてちょっと恥ずかしかった。

 「ありがとう。お邪魔します」
 「あ、はい」

 彼は自然に私から傘を奪っていった。いつもより高い位置にある傘が、気になる。

 そして始まる沈黙。

 駅は賑やかだったのに一歩外に出る度、静かになっていく。

 私と彼との間にはやはり会話はない。だから静けさが強調されるようだった。

 だけど、

 「あのさ、」

 彼が沈黙を、破る。

 私はびくりと肩を揺らしてから、彼を見上げた。彼もちょうど私のことを見ていて視線が重なる。私と彼の間にある距離は、身長の差数十センチくらい。思ったよりも近かった距離に、私は上げた顔をすぐに下げた。