「はい、コレ」
彼は私に何かを差し出す。……いや、何か、というかこれは、
「折り畳み……」
確かに嬉しいけど。でも、なぁ。
私は様子を窺うように彼を見た。彼は受け取らない私を不思議そうに見ている。
「遠慮しなくていいよ? コレ、安物だから」
「でも、」
私は受けとることも、その場から去ることもできずにいた。
そんな私を見かねたのか、彼は私に折り畳みを押し付ける。
「だから、いいって。じゃーね」
「ちょっ」
彼は自分の傘を広げて、颯爽と去っていってしまう。伸ばした手は虚しくも、空を切る。
手に持った折り畳みがほんのり温かい。どしゃ降りで、私の体温を奪わんとする雨とは、対照的に。