「あ、私、降りなきゃ!」
「うん、じゃあね」
「ばいばーい」
そうして園ちゃんが降りていく。私は遠ざかっていく園ちゃんの背中をぼうっと見つめていたけれど、やがて電車が動き出して見えなくなった。
私の最寄りまで、ここからちょうど15分。
携帯を弄ろうかとも思ったけれど、すぐに用がないことに気付き、鞄に忍び込ませようとした手を膝の上に置いた。私の目の前では相変わらず海南高校の人たちがお喋りをしている。
彼は、どこの高校なんだろう。
名前すら知らない。傘に入れてもらっただけの彼。
私は彼を思い浮かべてから少し思い立って周りをきょろきょろと見渡した。雨の日。同じ電車かもしれない彼。もしかしたら同じ号車に乗ってたりしないかな、なんて思ってみたのだ。
しかしその思いは簡単に砕け散る。やはり、そんな偶然がそこら辺に転がっているわけがなかったのだと、縮こまった。
最寄りまでは、あと14分弱。それにすらも耐えられなくて、私は浅い眠りに落ちた。

