「彼とは遭遇してないわけ?」

 梓はさほど興味なさげに聞いてくる。

 「遭遇してたら傘、返してるもん」

 私は恨めしげに鞄を見た。鞄の中に入った傘がずしりと重い。

 「ああ、そう。じゃあ、どこ校の人なわけ?」
 「えー……」

 おぼろげな記憶を引っ張り出す。が、彼がどんな制服を纏っていたかなんて、覚えているわけがなくて。その一連の作業は、ただ無駄なだけだった。

 「わかんない、かも」
 「じゃあさ、カッコいい? そうでもない?」

 さっきまではまったく興味なさげだったのに、少しは興味を示した様子でそう聞いてくる。