寝不足だ。ぼうっとする頭の片隅で、そう思った。

 鳴るはずがないとわかってはいても、私は昨日、ずっと携帯を気にしていた。ぼうっとして、特に何をするでもなく、でも伊勢谷くんの傘を視界に入れないために、玄関は通れない。だから部屋の中、ずっと一人で。

 そんな心境で、安らかな眠りにつけるはずもなく、時計も確認しないままにベッドで数度、寝返りをうつ。

 部屋は静かだった。だから携帯のバイブ音がしたならば、すぐわかるはずだと考えながら瞼を閉じる。だがしかし、いっこうに眠くならず、結局最後に確認した時計の針は3時半を指していたところだった。

 睡眠時間はいつもの約半分。それで眠くならないはずはなく、目をこすりながら改札に入る。そしてやっぱり今日も私は、伊勢谷くんと同じ時間の電車には乗らなかった。乗って、伊勢谷くんの口から「何か」を聞く勇気なんて、持ち合わせていなかったのだ。