心の迷路




「ここが第1理科室、その隣が第2理科室。第2理科室は実験の為に使われるの。」


校舎案内中。


「で、この理科室を通過してまっすぐ行ったところに社会科教室があるの。ほぼ使わないけど。」


若宮くんはひとつひとつしっかりと見ていた。


そしてしばらく歩いて。


「ここが体育館。」


「あ、体育館はいい。次行こ。」


私が言った瞬間、若宮くんは即答でそう言った。


「え。」


様子が変だった。


若宮くんの表情が一変した。
まるで、何かに怯えるような……。


「若宮くん?」


私が呼びかけた瞬間のことだった。


若宮くんは、身体をビクッとさせた。


「……なにかあったの。」


「……。」


下を向いて答えない若宮くん。
私はそれを見て、体育館から離れるように歩き始めた。


「行こ。」


「え、聞か……ないの?」


ゆっくりとこちらを見る。


「私に他人の事情なんて関係ないでしょ。」


「……夏野さんは、すごい。」


急に若宮くんがそう言った。


「なにが、いいから早く離れるよ。」


「……ありがとう。」


 “ありがとう”?


 なにそれ。


 私、そんな言葉……知らない。


 久しぶりに言われたから、忘れかけてた。


 私は何もしていない。


 なのにこの人は……そんな言葉、くれるんだ。