「あれ、稲瀬さん」 「田口くん」 そこから顔を出したのは、定時であがったはずの田口くん。 「どうしたの?」 「携帯忘れたっす」 田口くんはそう部屋の隅にあるデスクから黒い携帯を取り出す。 「本当に残業してるんすか」 「うん。寝れなくても明日までに作ってみせるよ!」 「……」 言い張る私に、その目はこちらをじっと見た…かと思えば、不意に私の隣の席に着きパソコンを起動させる。