そう思うもののゆっくり支度する暇もなく、着いた駅前にはいつも通り私服姿の彼がいた。 「あっ…田口くん!」 「…稲瀬さん」 「ごめ…ちょっ、ちこっ…ざんぎょ…、あって…」 「落ち着いてください」 何とか間に合った、と息をぜえぜえあげる私に田口くんは至っていつものペース。 「そんな急がなくてよかったのに」 「いや…、でも待たせるわけには…」 「…真面目っすね」 そう笑って、汗で額に張り付いた前髪を取るようにその長い指先はそっと私の前髪に触れる。 「今日もお疲れ様」 「……」