その日の夜遅く生徒会室には雅人と翔の姿があった。

「んで?
結局何か分かったのか?」

「いや。
分からない事が分かったよ。」

「…意味わかんねえ。」

雅人の言葉に翔は笑いながらコーヒーを口に含む。

「どれだけ調べても何も出てこないんだ。」

「…まぁ一般庶民なら仕方ねぇだろ。
怪しい過去とか輝かしい経歴なんて無い奴の方が多いんじゃないか?」

「違う違う。
本当に何も出てこないんだよ。
存在自体ないんだ。」

翔の言葉に雅人は首を傾げる。

「じゃあ…あいつ偽名でも使ってんのか?」

「僕も最初そう考えたんだけどね。
でもおかしいんだよ。
使用人の募集は18歳以上なのに清水さんは明らかに18なんかきてない。
その時点で身分証を確認するだろうから偽名は使えないんじゃないかな。」

「じゃあ何か?
お前はあいつが幽霊とでも言いたいのか?」

その言葉を笑う事なく翔は頷いた。

「幽霊に近いかな…。
もし身分証がなかったなら年齢確認出来ない。
住民票も戸籍もなかったならそれこそお手上げだ。
…中学までの勉強をさせろなんて命令も本当なら本人次第で良いハズなのに見張るよう命令してきた。
…それがもし義務教育さえ受けていなかったとしたら。
理事長が命令までしてくるのも納得できる。」

「義務教育受けてねぇって…。
そんな奴いねえだろ。」

「…その存在を国が認めてなければ、可能だよ。」

そこで一旦言葉を切る。
コーヒーをもうひとくち啜ると結論を口にした。

「清水さんは無戸籍児なんだと思う。」

「…まじかよ。」

「でも困ったな。
僕にしては珍しく手詰まりだ。」

確かに存在していない筈の人間を調べるのはどうすれば良いのか雅人にも分からない。

「…絶対会った事があるんだけどね。」

「道端とかじゃねぇの?」

「いや。
もっと大事な事なんだよ。
あーモヤモヤする。」

そんな翔を見て雅人は笑う。

「まぁもう寝るぞ。
寝坊したらあいつにまた何されるかわかんねえし。」

「そうだね。
まあ時間かけてやるかな。」

2人はそんな会話をしながら部屋を後にした。

清水に盗聴されているとも知らず。