「連絡がつかないから、こちらから出向いたよ。いったいどうしたんだ? いくら呼び鈴を鳴らしても出ないから管理人さんに聞けば、君は隣の部屋にいると言われて驚いたよ」


靴を脱ぐなりそう言う彼はどうやら熾悒の客らしい。


「申し訳ございません。携帯電話の電源を切っておりました。お嬢様の大切なお時間を無粋な用で汚されたくありませんので、お嬢様がいらっしゃる間は電源を切らせていただいております」


「お前……それじゃあ、その携帯電話は彼女専用みたいじゃないか」


聞き様によっては無礼と言われかねない熾悒の返答に、からかうように訪問者の彼は応じる。


「みたい、ではなく事実そうですね」



(……そう言われると複雑な気持ちね)


黙って様子を見守っていたものの、しれっと言ってのけられた言葉に、耳を塞ぎたくなる乃碧だった。


「……んん、まあいい。実はウチの興信所にまた霊絡みと思われる依頼が入ってなぁ……」


お客、もとい興信所の所長を名乗る彼は、一つ咳払いをして自分の経営する興信所に舞い込んできたという依頼について話し始めた。