「ああ、やはり貴女は華厳の滝の氷柱(つらら)のように気高く、美しくていらっしゃる!!」


否、耳のみならず、目をも疑った。


見上げてくる男の表情は熱に浮かされたようで、恍惚そのもの。



(何なの、いったい!?)


堪らず、心の中で悲鳴を上げた。

生身の人間と判り、急激に目の前の人物に対する興味を失いつつあったのだが、予想を大きく外れた男の反応にごっそり意識を持っていかれた。


怒るというのならば頷ける。

しかし、とろけるような熱い眼差しを送られる理由はとんと見当たらない。



「ああ、失礼致しました。そのご様子ではお父様からお聞きになっていらっしゃらないようですね」


いったい自分が何を聞いていないと言うのか?

そんな疑問を抱く暇すらなく彼は告げた。


「私の名は皇熾悒。これから誠心誠意お嬢様にお仕えさせていただきます」


意味が分からない。

何故、彼はこんなにも下手に出てくるのか?


しかし、彼女にもプライドはあった。


「せいぜい頑張って私の後を遅れないようについて来るのね」


「はい、乃碧様」


動揺を悟られたくないがための冷たく突き放すような言葉にもうっとりと聞き入り、しかと頷いた熾悒だった。