「どうやらここで、合っているようね」
手元のメモを確認し、乃碧(のあ)は呟いた。
目の前には大きなマンション。
携帯電話を翳(かざ)してロックを解除し、玄関ホールに入る。
カウンターを横目に通り過ぎ、エレベーターへと乗り込んだ。
玄関ホールには常駐の警備員が二人。
エレベーターは指紋認証機能付き。
高級マンションと言うだけあって、防犯設備は整っているようだ。
目的のフロアに辿り着くとエレベーターは揺れもなく止まり、扉が静かに開く。
落ち着いた雰囲気の廊下を進み、一つのドアの前で立ち止まった。
今日から、ここで神々廻乃碧の新しい生活が始まる。
カードーキーを差込み、すうっと大きく息を吸い込んでドアノブに手を伸ばし……。
固まった。
ドアの向こう、誰もいない筈の部屋から物音が聞こえる。
(管理人さん? 泥棒? それとも……幽霊かしら!?)
平均的な思考を持ち合わせる女性であれば恐怖を感じるであろう、この状況。
しかし、乃碧は期待に胸を高鳴らせていた。
除霊の儀を行うことを許された聖職者。
つまりエクソシストを両親に持つ乃碧には、幼い頃から幽霊が見える。
そして彼女は、そういった類の話には目がなかった。
――ゴクリ。
固唾を呑んでドアノブを握る指先に力を込めた。