「お嬢様、準備が整いました」
「そう、じゃあ始めて頂戴。私はここで見ているから」
「はい。お茶などなさりながらごゆっくりご覧くださいと申し上げたいところなのですが、召し上がっていただくお茶を淹れる時間がないのが残念です」
あれから熾悒はマネキンに簡素な封印を施し、近くの寺に事情を説明してそれを運び込んだ。
場所を替えたのは今回の供養に広い土地を要するためである。
ここは寺の境内。
地面には大きく星の図柄が描かれ、その5つの頂点と中央には何やら木が組まれていた。
周囲のものに比べ中央のものは一際高く、頑丈そうに見える。
そこにマネキンを置くと熾悒は五芒星の頂点に位置する薪に順に火をつけていった。
最後に中央の薪に火をつけると、その正面に立って口の中で小さく何かを唱えながらじっと、揺らぐ火を見つめている。
炎は次第に大きくなり、マネキンからは黒い煙と共に腐肉を焼くような異臭が漂い始めた。
思わず顔をしかめた乃碧だったが、何も言わずにハンカチを取り出し、鼻と口元を覆って見守る。
乃碧の隣では娘の手を握った依頼人がガタガタと震えていた。
「ギャァァァーーー!!」
突然、耳をつんざくような悲鳴が上がった。
驚くべきことに、その声は件のマネキンから発されている。
手をかざし、熾悒はさらに火を強めた。
「熱い……痛い……助けてくれ……!!」
最初のうちは意味を成さない叫びであったのが、懇願するような声に変わる。
“助けてくれ”という言葉が何度繰り返された時だっただろうか?
「やめて!!」
幼子の声が境内に響き渡った。
「お父さんになにするの!? やめて、やめて!! お父さんがしんじゃう!!」
依頼人――母親の腕の中で暴れながら少女が叫ぶ。
なだめすかす母親の声も耳に入っていないようだ。

