呪い†代行屋

「コホンッ。私、貴女が相談した興信所から依頼を受けてやって参りました、神々廻乃碧と申します。コレは……」

咳払いをしてから自ら名乗り、続いて後ろに目を遣って口を閉ざした。


振り向いた乃碧と目が合った熾悒は古拙に笑むのみで自分から名乗ろうとしない。

ということは乃碧の口から依頼人に説明しなければならないのだが、今日会ったばかりの男をどう説明するべきか。

この点で乃碧は頭を悩ませていた。


乃碧自身、よくこの男のことがよくわかっていないのだ。


(後で本人にみっちり話を聞かせてもらいましょう)


固く心に誓いつつ乃碧は一人、ある結論に達した。


「わざわざ紹介するほどの者ではありませんわ」

小さく整った彼女の唇から零れたのは、素性を隠したい者が遣う常套句であった。


「はぁ……」

対する依頼人は一瞬面食らったような表情を浮かべたものの、特に何かを聞いてくる様子はない。


考えてみれば寺院にも属する者を除いて、お祓いや霊媒術を行う人間に素性がはっきりしている者などいったいどれほどいるというのだろうか?

もともと信憑性に欠ける存在だが、依頼人は藁にも縋るような気持ちで頼ってきているのだ。

今更、疑うも何もないだろう。



「それで例のマネキンはどちらに?」

「どうぞお入りください。こちらです」

依頼人は本題に入った乃碧たちを家の中へと促す。


手狭な玄関に直結した台所を通り過ぎ、依頼人がドアを開けると、一体のマネキンと少女が目に入った。


「お父さん、きょうはなにしてあそぶ~?」

少女はこちらの様子を気にも留めず、しきりにマネキンに話しかけている。


「これは……」

問題のマネキンを一瞥するなり、今日ここへ来て初めて、依頼人の耳にも届くように熾悒が言葉を発した。



「予想より事態は深刻なようです」

「そうね」

熾悒の見立てに乃碧が首肯する。


「早速マネキンの供養の準備に取り掛かることにしましょう」

「ええ」


再び頷く乃碧であった。