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「というわけなのだよ、皇くん。どうかね? ここはひとつ……」
「お断り致します」
気配で察し、スッパリと切り捨てる熾悒。
容赦ない。
「言い忘れていましたが、前回の依頼を持ってやめさせていただきます。私はお嬢様のお世話に専念致しますので」
頭を下げて頼もうとする人間に対し、こちらは只々自分が決定した事項を突きつけるのみ。
どちらが上役か判らない。
「そこをなんとか。君しか頼れる人間がいないんだ」
「何度頼まれようと結果は同じですよ? お嬢様を危険に晒すような真似をこの私が承知するとでも?」
完全に熾悒が押しているかのように見えた交渉。
しかし、ここで別の声が割り込んだ。
「あら、いいじゃない」
「お嬢様!! しかしですね……」
まさに鶴の一声。
熾悒はここで初めて言いよどむ。
「貴方の供養の腕前が見てみたいわ」
ここまで二人のやり取りを黙って見守っていた乃碧だったが、霊が絡んでいる可能性がると聞いて黙っているわけにはいかない。
それにこの男、供養が出来るというではないか。
気にならないわけがない。
おそらく両者とも計算外であったろう、乃碧のこの反応。
「お嬢様のお望みとあらば、仕方ありませんね」
渋々といった感じで引き受ける熾悒。
言うまでもなく、所長は心の中で乃碧に向かって手を合わせたのだった。

