花に、嵐

「買いたいもの?」

耳に心地よく響く艶やかな声。


リビングの隣にある和室で、こちらに背を向けて座っているママは、いつもの日課の花を生けていた。


凛とした背中には黒地に赤の椿の柄の着物の帯。

それが鮮やかに輝いているようにも見える。


細いうなじが妖艶さを感じさせて、後ろから見たらとても20歳過ぎの娘がいるようには見えない。


「あ、えっとね、服なんだけど」

「服?服ならお小遣い渡してあるんだからその中から買ったらいいでしょう」

これから生けるんだろう、視線は手に持つ梅の木に向けたままだ。


「それなんだけど、リクルートスーツ買ったからもうないんだよね…」


「―――リクルートスーツ?」