「ああ、君!
滝川伶くんだね!!
よかった、来て。
さぁ、空いている席に座って。
もうすぐ入学式が始まるよ。」


俺が体育館に入ると、入り口にいた男が俺に声をかけてきた。

なんでわかるんだよ。
名簿でもあんのか?
顔まで知られてるってどうなってる?

俺まだなんも悪いことしてねぇし、目立ってねぇはずなんだが……。


あ、こいつ先生か?
見た目20代前半だな。
なんか文系っぽい顔。
黒縁のめがねで細身の長身。

……いい奴オーラが滲み出てる。



「なぁ、佐紀夢河はどこにいる?」


俺はその文系先生に聞いた。


「佐紀さんの知り合いか?
佐紀さんは新入生代表で、式中にスピーチがあるから、前の方の席にいると思うよ。」


文系先生は笑顔で答えた。


…爽やかだな、こいつ。




「そうか、わかった。
さんきゅーな。」


俺は文系先生に礼を行って、佐紀夢河を探しに前の方の席に行った。





黒髪ロング…
160くらいの身長…
色白…

忘れられない佐紀夢河の顔を思い出しながら、ゆっくりと歩く。


くそ、女みんな髪長ぇよ。

これじゃすぐに見付からな……




………いた。


俺はバカか。

あんな美人が、その辺の女の中に混ざれるわけがなかった。


明らかに違うオーラ。
最前列に座り、隣の女と喋っているやつ。

そいつは、後ろ姿だけで佐紀夢河だとわかった。



……声をかけるべきか?

俺が迷っていると


「それでは皆様、ご着席下さい。
間もなく入学式を開始いたします。…」


ババアの声だ。
専務かなんかだろう。

仕方ねぇ、サボる予定だったが今更なぁ……

俺、こんなんだけど、根は真面目だからよ。

それにきっと、今体育館から出ようとしても、文系先生に捕まる気がする。
あいつからは逃げられない。


なぜだかわからないが、俺は直感でそう思った。




とりあえず、座るか。


俺は、佐紀夢河の二列後ろの席に座った。