俺がビックリしているのが、女にもわかったのだろう。


女は俺の質問に答えた。

「あ、えっと。
佐紀夢河です。」


しかしそれは落ちた女の表情ではなく、『何言ってんだこの人。』とでも言いたそうな表情だ。


……こうなったら意地だ。
なにがなんでも落とす。


「夢河ちゃんかー。
顔だけじゃなくて、名前まで可愛いんだな!
なぁ、俺と付き合わねぇ?」



あぁ、今の俺、最高に笑顔だわ…。


そう思っていたら




「はぁ?
何言ってんの?付き合わない。
てゆうかこれから入学式なんで。
それじゃあ。」



女はそう言い、俺を放置して歩いて行ってしまった。


「ふざけんなてめぇ、この俺が『付き合わねぇ?』って言ってんだぞ?断るとかどうかしてんのか?」


………っていつもの俺なら…。
いや、5秒前の俺なら言っていた。


が。



俺は言えなかった。
言えなかった上に、その場から動くことができなかった。




…なんだ?
なんなんだこれは。


俺の心臓が苦しいくらい脈を打つ。



いままでにいない女。
すげぇ美人で、ありえないことに
俺が笑顔を見せても落ちねぇ。


……さっきまでとは違う感覚だ。



「落とす」

もう思わない。


もっと違う何か…


よくわからない感情が俺のなかで渦巻いている。




……あの女に。
あの女にもう一度会えばわかるかもしれない。