夏休みに入る一週間前、俺は父さんに話がある、と伝えられた


俺の家は代々続く和菓子屋店で、俺もパティシエの修行をしていた

子供は俺一人だから跡継ぎは俺だから

それは嬉しいんだ

和菓子が好きだし、作るのも好きだから


生まれつき手先が器用な俺には向いていたしな



「哲、お前に話があるんだ」

「何?」

「……俺はパリの知り合いにお前を修行させてくれと頼んだ」

「…え?」




突然の事だった

父さんが、俺にパリに行けと話したのだ



「忙しいのに受けてくれたんだ。…今しかない。悩むのは分かるが……」

「そんなっ!急すぎだろ!?高校だって入ったばっかで…」

「あぁ、だが、今しかない。お前が行かないのなら、跡は継がせない。お前には立派になって欲しいんだ」

「……っ!跡継がせないって何だよ!」

「それくらいの度胸が欲しいんだ。高校なら気にするな。向こうで手配する」

「手配っていつまで…」

「2年だ」




真っ暗だ

2年なんて長すぎだろ

帰ってきたら3年生になっちゃうじゃんか



フラリ、と壁にぶつかる


しかし、俺は断る事なんか出来なくて

お菓子を作る事が、父さんの跡を継ぐ事が、俺の誇りだったから



「……行くな?」

「…は、い」

「……出発は夏休み明けの1日前だ。後の事は俺がやっておくから。…お前は整理しなさい」


ポン、と俺の肩に手を置いた父さんは悲しそうに、また期待するような目をしていた