絹江さんは一言で言えば、
寡黙な老人だった。
あのおしゃべりな母の親とは思えない。
「あの・・・これ、どうぞ。」
俺がチャイムを押すより先に
ドアをあけ、居間に通してくれた。
しかし、その間、何も話さない。
「由紀恵が用意したのかい?」
絹江さんの声を初めて聞いた。
声は何処となく母さんに似ている。
俺は首を横に振った。
母さんは何も用意してくれなかった。
仕方が無いので俺が駅で買ったのだ。
「親があれだと子がしっかりする。」
絹江さんは小さく呟いた。
「お前さんの部屋は奥の部屋だ。
掃除もしてあるし、カーテンなんかは
洗濯してあるから大丈夫だろ。」
「ありがとうございます。
早速部屋に行ってみます。」
俺は席を立った。
これ以上二人きりは気まずかったのだ。

