嘘だ、なんでここにいるんだよ。
まさか、さっきの聞いてた?
「お取込み中のとこごめんねっ。
先生に数学ワーク
運ぶの頼まれちゃった。
ほら、あたし今日日直だったし」
いつもと変わらない表情で
いつもと変わらない声色の浅野。
目の前にいる佐伯は
気まずさに耐えかねたのか
「じゃああたし帰るね」と
言って先に出て行った。
佐伯とすれ違って
こっちに近づいてくる浅野。
「あ、顧問の先生が
部活出ろって言ってたよ」
数学ワークを古いデスクに置いた浅野は
思い出したように俺と顔を合わせた。
鼓動が尋常じゃないほど脈をうつ。
「え。ぁ…ああうん」
そんなこと今はどうでもよくて。
でも、言い訳がましすぎて
上手く言葉にできない。
「この前先帰っちゃってごめんね。
でもあたしん家
ホントすぐそこだったしさ」
「浅野…」
「伊吹くんまだ此処にいるの?
でも、もう少しで大和田先生此処に
来るかもだからもう出た方がいいよ」
「うん、浅野あのさ…」

