それはとある日の昼下がりのこと。

日野にある佐藤彦五郎宅でのことだった。




「鉄之助くん」




ふと呼ばれた名前に顔を上げたまだ若い少年。

庭で掃き掃除をしていた鉄之助のもとにやって来たのは、この家の主人である彦五郎だった。




「彦五郎さん。どうかしましたか?」




突然名前を呼ばれた鉄之助は動かしていた手を止め不思議そうに首を傾げる。

そんな鉄之助に、彦五郎は笑みを深めた。




「実は鉄之助くんにお客さんが来てるんだよ」


「私に…客?」


「あぁ。きっと懐かしい顔のお客さんだよ」




その言葉に更に首を傾げる鉄之助。


それもそのはずである。


彼が此処にいることを知っているものなどいないはずなのだから。