指先で紡ぐ月影歌





「…怖ぇのかも、しんねぇ」




驚くほど小さく、本当に小さく出た言葉。

でもそれは間違いなく俺の本音だった。


"怖い"だなんて。

あの頃だって一度も口にしたことのなかったその言葉に思わず嘲笑が顔に浮かぶ。




『怖い?お前が?』




俺の言葉が相当意外だったんだろう。

土方さんは持っていた盃を置くと、驚いたような表情を浮かべて首を傾げた。


まぁ、そうだよな。俺だって自分のそんな感情に驚いてる。


土方さんの珍しく人間味を帯びたその表情。久しく見なかったその顔に俺の肩から力が抜けた。

そして俺の口からはスラスラと言葉が飛び出していく。


まるで溜め込んでいた重い重い鉛を吐き出すように。