指先で紡ぐ月影歌





池田屋の一件が起こる少し前くらいから、微かにだけど不穏な空気は感じていた。


でもそれは出所がわからないくらい本当に小さなもので。

本当に稀に感じる違和感のようなものだったから。

だから俺もそれほど気にしていなかったんだ。


だけどよく考えたらそれは、大坂に出張に行っていたあの人と山南さんが帰ってきた頃からだったかもしれない。


俺たちは、何も知らなかった。


まさか山南さんが脱走を試みるなんて。

誰も想像していなかっただろう。


いや、もしかしたらあの人は予想していたのかもしれないけれど。


山南さんが脱走して初めて気付く。


そういえば彼が竹刀を握るのをいつから見ていなかっただろうか。