指先で紡ぐ月影歌





…と思っていたのだが。

どうやらそう思っていたのは俺だけだったようで。


知らないうちに前に出ていた芹沢さんが、あっという間に目の前の兵士たちに噛み付いた。

誰もそれを止めることをしない。

俺の隣にいる左之助も総司も、うんうんと頷くだけ。


そして気付けば芹沢さんたちの言い合いに土方さんまで参加していた。


普段相容れることのない二人が協力している姿を見たのは後にも先にもこの時だけだったと思う。


鉄の扇子を片手に仁王立ちする芹沢さんと、凍てつく瞳と上手い口を持つ土方さん。


この瞬間、対峙している会津藩の侍さんたちに同情したのはきっと俺だけではないだろう。