ゴールのところで、走り終えた戸田くんに体育担当が、どうやら褒めまくっているみたい。

戸田くんが、何度も首を横に振るのが見えた。




戸田くんがひとしきり褒められていると、他の人達が今ゴールした。



戸田くん、どんだけ速いんですか。


今走り終えた男子が、

「お前、戸田、どんだけ速ぇんだよ!」

と息を切らしながら叫んでいる。



戸田くんはまた首を横に振ったあと、なぜか私の方に歩いて来た。


隣の清華ちゃんは「ちょっと水飲んでくる〜」とニヤニヤしながら立ち去ってしまった。



「ぅええぇぇ?!」


「んだよそれ」


むすっとした声が頭上から降ってきた。



はっ!


いや、戸田くん。

あのですね、今のは清華ちゃんに対して言ったのです。

ほんの1ミリも、戸田くんに対してではないのです!






「タオル貸して」


「はい?」


「あっついから、顔洗う」


「あぁ、そういう事ですね」



私は体育用のポーチからタオルを取り出した。



「………」


…えっとこれ、渡しても大丈夫な感じですか?


キャラクター、バッチリ入ってますけど…




私がタオルを眺めて考えていると、ひょいと戸田くんが私の手から取った。


「さんきゅ」


戸田くんはそのまま走って行ってしまった。


私はその後ろ姿を呆然と眺めていた。





そしてすぐに、戸田くんが走って帰って来た。


前髪から水滴が滴っている戸田くんは、これまたかっこいい。


どきどきを抑えながら私がタオルを受け取ろうと手を伸ばすと、戸田くんは首を傾げて「?」という顔をした。



「いいよ。洗って返すから」


「え……?」



戸田くんは私の言葉も聞かずに、無造作にそのタオルをポケットに突っ込むと、またグラウンドに戻って行った。





※数日後、戸田くんからタオルを返してもらった岡田さんは、終始ニヤニヤしておりましたとさ。