ー 「は〜い、出欠取りますよー・・・・・・あ、私はこの2組の担任を任されましたあ〜桜田ですうーよろしく〜・・・・・・ハア。」





最後のため息は何だ。クラスにいる全員がそう思ったことだろう。

そんなことはつゆ知らず、桜田は出席確認をしていく。

さっき、廊下で叫んでいたのはこの女なのか?と誰もが気になっていた。

「誰か、聞いてみろよ。」という目をした男子生徒が何人かにアイコンタクトをとっている。

それでも、誰も聞こうとはしない。それも当たり前、入学初日にそんな馴れ馴れしく先生に質問する生徒はいないだろう。





「桜田せんせー!さっき、廊下で『演劇部がないいいい〜〜〜〜〜〜』って叫んでたのは先生ですか!!」





いたよ。前言撤回ですよ。馴れ馴れしく質問する生徒がいましたよ。

皆一斉に、声がした方を見る。そこには、1人の女子生徒が手を上げていた。

制服の胸の所には『紫陽花 美優(あじばな みゆ)』とネームプレートが付けられていた。





「えー・・・・・・あ・じ・ば・なか。ああ、そうだ。私で間違えない。それがどうかしたのか?」





紫陽花の席の位置と担任だけが持っている座席表を見比べながら、名前を確認する。

軽く茶髪でカールになっている髪を上の方で2つに縛っているところが少し幼いが、可愛らしいことは確かだ。

まるで、動物に例えると犬?のようだ。





「いや、何で叫んでたのかなあ〜と思っただけです!!」





「失礼な質問すみません!!」と叫んだ。

なかなか度胸がある生徒のようだ。紫陽花の質問に誰もが頷き、桜田の方を見た。

その視線に気づいたのか、桜田は今日2度目のため息をついた。





「ああ、聞いて驚くなよ?・・・・・・・・・・・・・・・この学校には演劇部がないのだ!!!!!!本当に、ありえん!!!!!」





いや、入学式の時に部活紹介がなかったんだからそんなことぐらい知ってますけど?全生徒の考えが一致したようだ。何て、団結力が強いクラスなのでしょう。





「いえ、部活紹介がなかったので皆知ってると思いますよ?」





またもや紫陽花が発言した。あーこの子は正直な子なんだ。ただ、正直すぎるんだ。

その言葉に桜田は「何イイイイ〜〜?!」と声を上げて、先程よりも落ち込んでいた。

全く、感情豊な先生が担任になったものである。2組は。





「そんなに桜先生は演劇部が好きなんスか?」





突然、後ろの方に座っていた男子生徒が声を上げる。今度はそこに注目がいく。

これまた整った顔をしている。少し制服を着崩して着ていて見た目はチャラ男だ。どうやら、喋り方にも特徴があるようだ。





「桜じゃなくて、桜田だ。お前は・・・・・・吉沢 小菊(よしざわ こぎく)か。女みたいな名前だな。」


「えー桜先生の方が可愛いじゃないスか!名前は、自分でもそう思うすよー。」





苦笑いをしながら頭を掻く。紫陽花と性格が似ている為か、これまた動物に例えると犬みたいだ。





「まあ、それは置いといて・・・・・・良い質問をしてくれた!!私は、君が言ったように演劇が大好きだ!小さい頃からずっと見てきてるからな。教師になっても何かしら演劇に携わりたい!!と思っていたんだが・・・・・・。」





それだけ言うと、また肩を落としてしまった。

よほど引きずっているようだ。人生は諦めも肝心だと言うのに。





「演劇ッスか〜・・・・・・あ。ないなら、自分でつくt『キーンコーンカーンコーン』・・・・・・あ、チャイムが鳴っちゃったス。」





桜田の言葉を聞き、少し考えてた吉沢はふと何かひらめいたような顔つきになり、何かを言いかけた所が丁度、チャイムが鳴ってしまった。





「よし、では諸君!今日は、初めての登校で疲れたことだろう。家にさっさと帰って昼寝でもするがいい!解散ッ!!!!」





桜田はチャイムが鳴ると吉沢の言葉が気になったものの、午前中登校の生徒達を解散させた。

生徒達はあまりの帰りの挨拶の仕方にびっくりしたが、早々に「さようなら。」と言って、教室を出て行った。

桜田も早く職員室に戻ろうと思い、教室を出ようとした。が、





「ちょっと、待って下さいッス!話、終わってない!!」





突然、吉沢に呼び止められた。ああ、そういえばそうだったな。とか思いつつ、吉沢の話を聞こうと後ろを振り向く。

そこには吉沢とあともう一人、紫陽花が立っていた。





「お、紫陽花もいたのか。もう、帰ってもいいんだぞ?」





紫陽花がいたことに驚いたのか、少し戸惑いながら桜田は声をかける。でも、紫陽花は帰ろうとしない。じっと桜田を見ている。





「な、何だ?私の顔に何かついt「自分で作っちゃえばいいんですよ!」・・・・・・は?」





桜田の言葉を遮るように今まで黙ってた紫陽花が声を上げる。

突然のことで桜田は間抜けな声を出してしまい、吉沢は紫陽花の方を見て目を見開かせている。





「じ、自分で作るだと?」


「はい!私も演劇ってやってみたいんです!!だから、部がないなら自分達で作っちゃえばいいんですよ!!確か顧問も決まってて、部員が6人いれば新しい部活が作れるんですよね!!あと、4人部員がいればいいんですよね?」





キラキラ顔を輝かせながら言う。


『演劇部を作る・・・・・・?』桜田は何か一筋の光が見えたような気がした。

まさか、自分も考えもしなかったことが生徒によって気づかされるとは・・・・・・まあ、単なる考えが単純なだけであるが。





「そ、そんな手があったとは・・・・・・でかしたぞ、紫陽花!!よし、顧問は私がやる。後は、部員達だな!お前を含めてあと5・・・・・・ん?紫陽花、お前はさっき『あと4人集まればいい』って言ってたな?5人の間違いじゃないのか?」





確かに、さっき紫陽花は「あと4人」と言った。しかし、紫陽花(1人)、そして集めなければならない人数は6人。6−1=5の筈だ。桜田は首を傾げる。





「いいえ、4人であってますよ!ね、ヨッシー!!」





言いながら後ろを振り向く、桜田も紫陽花の後ろを見るヨッシーと呼ばれたのは先程から放置されていた吉沢のことだった。





「わ〜ん、紫陽花ちゃん酷いッス!!せっかく、俺が言おうとしてたのにいいい〜〜!!!」





軽く吉沢は泣き出していた。紫陽花は「ごめんねー!」と苦笑いしながら吉沢の方に駆け寄る。

桜田はというと首を傾げたままだった。





「吉沢、お前も入ってくれるのか・・・・・・?」





恐る恐る尋ねてみる。グズグズさせながら何とか吉沢は答えようとする。





「だーかーらー、さっきの言葉は俺が言おうとしてたんス。入りたくなかったらそんなこと言わないッスよ・・・・・・。」





桜田はその言葉を聞いた途端、石のように固まってしまった。

それに気づいたのか2人の生徒はアワアワ慌てながら近寄る。





「み、美代先生?だ、大丈夫ですか・・・・・・?」


「さ、桜先生?かえってきて下さいッス!!」





2人して必死に呼びかける。





「・・・・・・・・し・・・・・・・・・や。」


「「・・・・・・??」」





桜田は何か言っているようだった。しかし、それは小さすぎたため2人には聞こえなかった。2人は、何と言っているのか機構として更に近づいた。







「よっしゃアアアアアアアアアアアアアア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」




耳元で叫ばれた2人はさぞびっくりしたことだろう。ー