「行こう、紅玉。」


ガチガチと歯を鳴らしだしたうさぎを、黒曜が労るように抱き上げた。


「嫌じゃ… ゆけぬ…
景時が…」


「わかっている。」


苦笑いを浮かべた黒曜が、揺れる赤い瞳を覗き込む。


「だが、おまえには時間が必要だ。
そうだろう?」


黒曜の言葉を聞いたうさぎは、もう一度部屋の様子に目をやり、唇を噛んで俯いた。


「う…さぎ…」


低い呻き声がする。
誰の声かはすぐにわかる。

だがうさぎは彼を見ることが出来ず、黒曜の胸に顔を埋めた。


「大…丈夫だから…
ごめ…ん…ね。
うさ… 大好」


「景時!」


黒曜の胸に縋りついたまま、うさぎが悲鳴を上げて遮った。

沈黙の中、ようやく景時がうさぎに向かって手を伸ばす。

秋時も片手で頭を撫でながら、上半身を起こす。

二人の視線を痛いほど感じながらも、うさぎは顔を背けたまま呟いた。


「景時、秋時…
本当に、すまなかった。
必ず戻るから…
待っていてくれ。」