赤い月 終


持っていることが困難な重さになったバジュラが手から落ち、足元に転がる。

別にイイや。
どーせ使えないし。

でも、まだこの躰がある。
拳がある。

殴りつけて、蹴り入れて、体当たりして、なんだってして、鏡を壊さなきゃ。

躰がイカレようが、頭がイカレようが、俺はもうどうだってイイよ。

うさぎが無事なら。

うさぎが…

うさぎ

うさぎ

うさぎ

景時は拳を固め、力任せに鏡に叩きつけた。

二度、三度…


 うふふ…
 無駄よ


無駄?

わかんねーだろ。
まだ、拳壊れてねーし。

四度、五度…


 ソンナニ…
 ソノ女ガ大切カ?


うさぎの名を呼ぶ自分の声と、鏡の含み笑いが不協和音を奏でる景時の頭の中に、別の男の声が割り込んできた。