赤い月 終


景時は強く唇を噛んだ。

どーする?

得物はない。
逃げ場もない。

いやいや、逃げちゃダメだろ。

ん?
逃げちゃダメなのか?

切れた唇から血が流れる。

痛みが脳を刺激し、正気でいられる気がする。

血を流し続けていれば、狂うコトはないンじゃね?

いやいやいや、その考え方がすでにヤバいだろ。

ヤバい?
ナニが?



そうだ!
うさぎがヤバいンだって!


「うさぎ…
うさぎ…」


愛しい人の名を呟く。

流れる血よりも、痛みよりも、美しい人の面影が、景時の蝕まれようとする心を戒める。

助けなきゃ。
助けなきゃ。

景時は黄ばんだ壁紙に爪を立てて躰を支え、もう一度ウォールミラーに歩み寄った。