赤い月 終


「ぐ… あぁぁぁぁぁ!!」


景時は血が止まりかけていた腕の傷を、自らの爪で抉った。

鋭い痛みに脳が飛び起き、正常に動き出そうとする。

膝を着いたまま青ざめた顔を上げた景時は、ウォールミラーを睨みつけた。


「残念。
俺、元々うさちゃんにイカレてるから、これ以上は狂えねーわ。」


 …生意気な男

 でも、結果は一緒よ
 苦しみが長引くだけ


もう高笑いは聞こえない。
その代わりに、含み笑いが脳内リフレインされる。

景時は吐き気を堪え、強く頭を振って立ち上がった。

何度集中しようとしてみても、斬鬼刀どころか念そのものを生み出すことができない。

バジュラは手元にあるものの、実質丸腰状態。

鏡から距離をとれば状況が変わるかと、ヨロヨロと出窓に近寄って外を覗くが、広がるのは暗黒の世界。

さっき通ってきた密林のような庭は、ココにはない。

廊下に繋がるドアを開けても、おそらく同じだろう。

この狂気をもたらす狭い一室が、鏡の中の全てなのだ。