赤い月 終


複雑な顔で首を捻る景時が目にした黒曜は、もっと複雑な顔をしていた。

人は必ず神には敵わない。
人は必ず鏡の世界で狂う。

その必然を、女を想う一念で凌駕してみせた男を目の前にして、黒曜は何を思うのだろう。

そしてその男が想う女は、彼が想う女でもあり…


「それに、鏡を殺ったのは俺じゃ…
あ!!」


黒曜の苦い心中に気づくことなく話し続けていた景時が、突然うさぎに向かって身を乗り出した。


「うさちゃん!
俺、父さんに会ったンだよ!」


「父君に?
そなた… 思い出したのか?」


事情があったとはいえ、彼の父親が彼の母親を喰らったことを、うさぎは知っている。

そして、一部始終を彼が見ていたことを、うさぎは知っている。

その記憶を彼が恐れていたことも、うさぎは…


「だーいじょーぶ!
心配しないで?」


不安そうに表情を曇らせたうさぎに、景時は甘く微笑んだ。