赤い月 終


うさぎではなかった。
愛しい人ではなかった。

ソレは初めての… 餌。

赤光の目が、ギラリと輝く。


「グ… ガアァァァァァ!!」


牙を剥き出しにし、涎を撒き散らし、赤光が跳ぶ。

背後からは黒曜の絶叫が聞こえる。

だがうさぎは微動だにしない。

躊躇うことなく、赤光の突進を小さな躰で受け止める。

牙が肉にめりこみ、骨を砕く音が聞こえた。

肩ごと喰い千切られる前に、その頭を左手で抱えて。

暴れる巨体を脅威の腕力で押さえ込み。

鉤爪が背を裂くのも気にせず。

うさぎは赤光をきつく抱きしめた。

もう、見えはしないだろう。

もう、届きはしないだろう。

だがうさぎは、微笑みながら囁いた。


「『ずっと一緒』じゃ、景時。
黄泉への旅路を妾と共に…」