─許してくれ、許してくれ。

 月夜…


─もう遅い。


冷酷に言い放った鬼は男にとどめを刺し、表情もなく死骸を見下ろしました。

そして視線を上げ…

運命の輪が、今、止まる。
軋んで、止まって、砕け散る。

男の伸ばした手の先にあるものを、鬼は見てしまいました。

男の寝所に飾られた花を。

豪華な花器には不釣り合いな、野の花を。

月夜が愛した、里に咲く白い花を‥‥‥

あぁ、憎しみだけならば。

それを糧に生きていくことも出来たでしょう。

人に仇なし続け、生きていくことも出来たでしょう。

でも鬼が最後に見たものは、月夜を殺そうとした男の、月夜に捧げた愛でした。

歪んだ、哀しい、愛でした。