赤い月 終


その夜更け。

何故か都にある男の屋敷の周囲にだけ、雨が降りました。

逆巻く風。
轟く雷。

一歩でも外に出れば、打ち倒され、動けなくなるほどの豪雨。

雨の監獄と化した屋敷に、小さな人影が舞い降りました。

人影…
いや、人ではありません。

爛々と燃え上がる、赤い瞳。

唸る風に踊る、銀の髪と赤い着物の裾。

稲妻を呼ぶように天に伸びる、二本の華奢な角。

あまりに美しく、あまりに神々しく、あまりに禍々しい…

鬼だ。

これが鬼なのだ。

屋敷は鬼の狩り場となりました。

鬼は鬼気を放ちませんでした。
浄めの炎も放ちませんでした。

悲鳴を上げて逃げ惑う人間の肉を抉り、貪り。

突き出された刃を噛み砕き、その腕を引きちぎり。

爪で、牙で、里の者がされたように。

母の目の前で、赤子の頭を握り潰し。

子の目の前で、母の腹を切り裂き。

悲しみを、絶望を、月夜がされたように。

誰一人、逃がさない。
誰一人、許さない。

嘲笑いながら、月夜を闇に堕とした人間共を。