景時は、お気に入りのYシャツを取りに寝室に向かううさぎの肩を掴み、引き留めた。
甘い時間の再現を試みたわけではない。
彼の頬は、緊張と困惑で引き締まっていた。
「本気なの?
さっきの話。」
「冗談でする話ではあるまい?」
(…
まじかよ。)
『闇蝕の術』
もしくは
『闇蝕の呪』
その名を聞いた途端、うさぎの様子は一変した。
明らかな拒否反応を示した。
なのに、たった数日でこんなに変わるモンか?
『闇蝕』に関わることが原因で、彼女の『心が死んだ』という推測は、間違いだったのだろうか。
真意を探るように深紅の瞳を覗き込むが、そこには迷いも曇りも見当たらない。
あの赤いガラス玉とのギャップに、逆に不安が胸を占める。
「なんで‥‥‥」
景時が苦しげに呟くと、うさぎは長い睫毛を伏せた。
細い腕が背中に回って華奢な身体を預けられると、条件反射のように硬直してしまう。
麝香の香りに、思考が遮断される。



