数分して戻って来た彼女の手には、
俺好みのエスプレッソが……。
「はい、どうぞ」
「サンキュ」
愛妻が淹れてくれた珈琲を口にして、
久しぶりに誰の邪魔だてもなく愛妻を眺める。
「お待たせ」
「もういいのか?」
「うん、残りは明日、会計士さんに相談するから大丈夫」
机上を片付け、パソコンの電源を切った杏花は、
俺ににっこりと笑顔を向ける。
そんな彼女の唇に軽くキスして。
「ん」
杏花の目の前に手を差し出す。
すると、彼女は目元を綻ばせながら
嬉しそうにそれを掴む。
駐車場にある愛車の助手席のドアを開けると
杏花はより一層、嬉しそうな表情になる。
「要、村岡さんが、2人で夕食して来るようにって」
「2人で?」
「斗賀を連れて、本宅で食べて来るって」
杏花は村岡からのメールを見て俺に話す。
けれど、これは予め俺が仕組んでおいた事。
仕事が多忙過ぎて、杏花と話す時間も無くて
3ヶ月前に大分に旅行に行って以来、
ゆっくり杏花の顔を見る事すら出来なくて。
正直、俺が限界なのは言うまでもなくて。
だから、村岡と祖父母に一枚噛んで貰って
杏花と2人きりのデートをするために。
「じゃあ、どこ行こうか?」