「いらっしゃいませ」


店のドアをくぐると、


挽きたての芳醇な豆の香りが鼻腔を擽る。


「杏花」


「あ、要っ。……どうしたの?」


「迎えに来た」


「もうそんな時間?」


6月は上半期の決算期という事もあって、


杏花は自分の店であるカフェの決算書類を纏める為に


数日前から毎日数時間、店に籠っている。


「斗賀は?」


「村岡さんに預けてある」


店にいないのを知ってて聞く。


生後10か月を過ぎ、すくすくと育っている斗賀は


最近はハイハイからつかまり立ちをするようになって


足腰が丈夫なのか、今にも伝い歩きをしそうな勢い。


離乳食は村岡のフォローもあって、


問題なく進められているようだ。


最近はお昼寝も殆ど必要なくなり、


午後に1回寝かせる程度らしい。


仕事に追われ、最近子育てから離れ気味の俺は


久しぶりに早めに仕事にキリがついた事もあり


こうして愛妻を迎えに来た。


「もうちょっと待ってて?」


「手伝おうか?」


「ううん、大丈夫。ちょっと待っててね?」


事務所から店内へと駆けて行った杏花。