「ったく、杏花には負けるよ」
「えっ?」
「こうやって甘えられたら、全て無かった事にせざるを得ない」
「………要」
「フッ、これも惚れた弱みだよな」
要はゆっくりと振り返り、優しく私を包み込んだ。
とても優しい表情で私を見つめる。
「私も同じよ」
「ん?」
「要の為なら、大舞台だってへっちゃらよ?」
本当は物凄く緊張して、どうにかなりそうだったけど
終ってしまえば全て良い想い出。
「ありがとうな」
「私の方こそ、今までありがとう。これからも宜しくね?」
「あぁ」
要は眩い程の笑みを零しながら額にキスを落とす。
そんな彼に全てを委ねるように瞳を閉じると、
「三味線の音色は他の奴らに譲ったけど」
「………けど?」
「俺には特別な音色があるから」
「…………ん?………特別な音色って?」
彼の意味する事が解らず、瞼を開けると
そこには妖艶な眼差しの彼が居た。
―――――ッ?!
甘い鎖で捕らえられたように身動きが取れない。